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身体を拭く前に体液、いろいろな分泌物が出る時間を確保するという意味ももちろんあります。死後の処置も自然体がいちばん望ましいと思います。身体を清めるときも家族の方と一緒にするのはとてもいいことだと思います。清めたあとは自分の衣服を着せるとかナイトドレスを着せます。病院では死後の身体を白いシーツで包みます。シーツで包んでおいたほうが担きやすいという実際的な面が確かにあります。
私どもは最後のお勤めという言い方をしているのですが、そこでいちばん気をつけるべきことは、家族が過ごしたいだけ気のすむまで亡くなられた方と一緒にいられるように時間を十分にとってあげるということです。亡くなった悲しみの第一歩としてそこで死が起きたのだという現実を家族が納得するその時間を与えるということでもあります。亡くなった人に触れる、亡くなった人に話しかけるというプロセスを経て、ああやっぱり亡くなったんだということを現実のものとして受け止めてはじめて悲しみの処理が可能になってくるのです。胃とか胸に水があるといったような場合には家族に説明して、水が溜まっていますから鼻から出てくるようなことがあるかもしれませんといった警告をしておくことが必要で九−私たちは自宅で患者さんを看取ることが多いのですが、そういった場合、日本ではエンゼルセットといって死後の処置の綿と割り箸の入ったセットを売っていまして、まず摘便をして便を全部出してあげて、吸引器で分泌物を吸って綿を詰めます。家族と一緒に身体を拭いてあげて、ご家族を外に出してからそういったことをするのですけれども、やってる側としては非常にいやなものです。もしこれをしないですむのであればいいのですが、そのあとに便が出てきてしまうような心配はないのでしょうか。
Wendy 稀にそういうようなことが起きないでもないですけれども、ほとんど起こりません。先ほど死後1時間は放置するといいましたが、その時間でそういうようなものはドレインしてしまいますから。亡くなった人に綿を詰めたりしないでそのままの身体でそこに安置するということで遺族としても納得できるわけです。
日野原 私は去年2人の往診をしました。元旦の朝7時半に電話がかかってきて、呼吸停止だと。お湯を沸かしていただいて家族の人と一緒に体を清めましたが、何も詰めません。
家族の人と一緒に身体を拭くとものすごく喜ばれるのです。先生に世話になって最後までしてもらえたと。それで悲しみが薄れてしまうのです。
それから私はご臨終ですということは言わないで、だんだんと静かになるときに、お別れをしましょうと言います。そうすると皆の気持ちがすーっと落ち着いて、心騒が止まっても感情が爆発するようなことは全然ないのです。あと1時間くらいで亡くなると思ったらまだ呼吸していてもお別れをするのです。そうすると家族の方は患者さんに話しかけます、「ママずいぶん苦労したね」とか「苦労かけたね」とか生きた人と会話するわけですから。私は10年ぐらい前から最後のシーンは音楽を流すのがいちばんいいと言っているのです。心が本当に静かになる、子供たちが吹き込んだものがあればそれがいちばんいいですよ。音楽というのは最期の気持ちを静かにする効果がありますね。
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